ボッティチェリ 「ビーナスの誕生」 ― 2012/10/09 20:52
ボッティチェリ 「ビーナスの誕生」
この絵は1483年ころにボッティチェリによって描かれた。左側に西風の神、ゼピュロスとその妻フローラが、貝に乗ったビーナスを陸に吹き寄せている。陸では時の神ローラが、絹のローブを持って、ビーナスを待ち受けている。この絵は、典型的なルネサンスの絵であるが、当時は絵といえばキリスト教の宗教画が主流であり、そういう観点でみれば、極めて異色な絵である。当時、ギリシャの文献が翻訳され始め、それまでの、キリスト教中心の文化から、ギリシャの自然を基調にした文化がヨーロッパでもてはやされるようになった(それがルネサンス)。ギリシャ文明はキリスト教文明を補完すると考えられたのだ。この絵も、ギリシャ神話をモチーフにしている。
通常、地上に降り立った神々は、衣服をまとっているが、このビーナスは裸であり、そのため、天上のビーナスと理解されている。なぜ、天上のビーナスなのか。当時、ボッティチェリのパトロンは、メジチ家のジュリアーノ・メジチであった。そのジュリアーノ・メジチは、当時ポルト・ヴェネレ生まれの美女、シモネッタと愛人関係にあった。そして、ボッティチェリもシモネッタをモデルとして、絵を描くようになる。ところが、彼女は23歳という若さで死んでしまう。また、ジュリアーノも暗殺されてしまう。
ボッティチェリは、このシモネッタをモデルにして、ビーナスの誕生を描くことを決心した。この絵の構図は、キリスト教の洗礼という絵の構造を引用している。キリストは洗礼によって、生まれ変わった。同様に、この構図を使うことで、シモネッタは天上のビーナスとして、生まれ変わったのである。なぜ、ビーナスであろうか。それはシモネッタの生まれ故郷が、ポルト・ヴェネレ(ビーナスの港)という町名だったからと言われている。
ボッティチェリは、この絵でシモネッタに再び命を吹き込んだ。しかし、その後のメジチ家の没落により、ボッティチェリの晩年も不遇のうちに亡くなった。
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